日本のアニメーション(前編)
以前に、アメリカ人のグラントが日本のアニメーションに詳しいことを書いたが、私がOSUに来て1年程してから研究室にやって来たデリックというアメリカ人も、これまたアニメーションに詳しい。なぜか彼もグラントと同様良く喋る。デリックの場合、OSUのアニメクラブに所属し活動しているだけあって、これまた良く知っている。このデリックとグラントでどちらがどれだけ詳しいのかは知らないが、少なくとも、最近の作品に関しては日本人の私より詳しいと言えよう。流石に、私もいい歳になってしまったし、勤めていると帰宅も遅いので、なかなか見る機会も無くなって長い。せいぜい日曜にたまに自炊して家で夕食をとる時のサザエさんを見る位になってしまっていた。しかし、元来「テレビっ子」等と言われた世代であり、ファミコン世代より古く、塾通いの割合も今より少ない(私は行ったことが無い)頃で、アニメが子供にとっての家での娯楽の王道・・・といえば言いすぎかも知れないが、ともかく小さい頃は随分見た筈である。基本的には好きなのである。にも拘わらず、アメリカ人との会話で、相手の方が知っていたりするとなんだか妙な感じではある。
日本のアニメというと、最近ではドラゴンボールやセーラームーンがフランスあたりでうけていると聞くが、結構以前から輸出はされていたようだ。先にグラントについて書いた時に、小さい頃宇宙戦艦ヤマトを見ていたと聞いた事を書いたが、その他マジンガーZも放映されていたとか。ボーリングに一緒に行ったヨルダン人が、「日本のアニメは見たことがあるぞ、なんていったかな・・・ヤマモト?」(違うって、ヤマトだってば)なんて言っていたが、ヤマトは遠くヨルダンでも放映されていたようである。同い年の中国人には、一休さんを見ていたと聞いた。一休さんあたりは、中国でも受け入れられ易そうだなという気はする。スロバキアでの学会に行った際、日本人の先生が、テレビでアタックNo.1をやっていたと聞いたが、スポコンものは東欧でうけるのだろうか?一昔前ならずいぶん見られたスポコンものは、もはや日本でははやらなさそうだが、現在の東欧だと、社会背景や一の心情に合うところがあるのであろうか。そう考えてみるとちょっと面白い。
OSUのアニメクラブでは、2週間に一度程、金曜の夕方にアニメの上映をしている。大きな講義室の大きなスクリーンを使っているので、ちょっと映画館のようでもある。デリックに誘われたのを機会に、しばしば見に行くようになった。最初に見に行ったのは、未来少年コナンである。もう20年程も昔のものであるが、当時、母方の田舎に泊まりに行った時でさえもそこで見て、1話も見逃さなかった程のお気に入りのアニメであったが、それを時を経て、しかもアメリカで見ているというのはなんとも奇妙な感じがしたが、非常に懐かしく感じられた。6時から12時頃まで上映しているのだが、流石に全部見ようという気力は無く、その日に上映された他のは見ず、コナンの1話だけを見てきた。最終回の2話前のものだったので、その次もその又次も通い最終回まで見た。
私が行くようになって3回目だったろうか、パトリック、グラントとインド人の女性、マイナと見に行った。まずはコナンの最終回を。ああ、そういえばこんなラストであったなと懐かしく見たが、私とグラント以外はいきなり最終回を見ても何が何だか分からなかったに違いない。
その後に見たのは竹宮恵子原作の「風と木の詩」。原作の少女漫画は読んだ事はなかったが、このタイトルは知っていた。思春期の少年の同性愛を描いたものなので、上映の前に、13才未満は退場のよしアナウンスされた。えげつない描写がある訳でもないし、一人で見る分にはなんともない筈であるが、知人と見てるとなんかちょっと気恥ずかしいものがある。製作国の日本の人間としても、別に作品が悪い訳ではないが、なんかちょっときまりが悪い。おまけに主人公はパトリックの友人と同じ名前ときたもんだ。グラントなぞは、もう出よう状態になっている。見終わって帰るときに、グラントはありゃひどかったとの感想であったが、パトリックは、いや、そんなことはないとのことで。
ゲイの割合も日本なんかより余程多そうなアメリカではあるが、思った程オープンでないらしく、グラント自身の視点もろうが、とにかく彼のお気には召さないようであった。一方、パトリックの言うには、その物語の舞台であるフランスの時代背景では、アニメで描かれているようなことはよくあることで、物語自身は作者のフィクションであろうが、有りえた話だという。当時、ブリリアントな詩人や芸術家が多かったが、性癖が変わっていたり、麻薬に溺れたり自殺したりと、退廃的なムードもあったようで。パトリックはスイス人で、フランス人ではないが、スイスのフランス語圏出身だしで、自分の属する文化圏の一面を描かれたという意識があるのか、物語に関しては、何やら気恥ずかしさを感じるところがあったようだ。そのせいか、グラントに対しては、そのアニメの弁護側的立場を取っていたのが面白い。アメリカとヨーロッパの感覚の違いを見るようで興味深かった。インド側は特に何も語っていなかったのが残念である。
その後も、面白そうなアニメの上映が有ると見に行っている。ちょっと前には宮崎駿のスタジオジブリ作品を幾つか上映したので見に行った。実は、宮崎作品の幾つかは、アメリカに来てから、蘇さんという台湾人の奥さんにビデオを借りて、何作か見ている。台湾で買ったもので、中国語の字幕が付いている。(台湾の言葉はChineseというとTaiwaneseだと訂正されることがあるのだが、中文字幕と箱に書いてあったのでそのビデオは中国製なのだろう。)勿論、台詞は日本語で聞けるので問題ないが、中国語は知らないとはいえ、漢字が使われているだけに幾らか読める。中国語だとこんな風になるんだと、なまじ少し理解出来るので、ちょっと字幕の方に気をとられてしまった感があった。
アニメクラブの上映で見た、スタジオジブリの作品は、「海がきこえる」、「火垂るの墓」、「もののけ姫」それから「魔女の宅急便」である。いずれもなかなか良かった。これらのアニメ映画を見に行った時の事などは、後半に譲ることにしよう。
(September 4, 1998)
トップページにもどる
目次にもどる