American Football
American Football
11月の中旬、American footballの試合観戦の機会を得た。Footballと言えば、プロスポーツとしてもバスケット、野球同様人気があるが、大学スポーツの中でも花形であり、シーズンには大学内外で結構な盛り上がりを見せる。ここOhio State Universityのチームは結構強いこともあって注目度も高いようである。OSUにはHorseshoeと呼ばれる、その名のとおり馬蹄形のかなり大きなスタジアムがある。毎年シーズンになると作られる、ちょうど馬蹄形の開いた部分を埋める、2万人が乗るという仮設の観客席を合わせると9万何千人だかの収容人数を誇る。東京ドームもびっくりである。U2とかRoling Stonesの様なメジャーなバンドも公演に来ている。この様に大きなスタジアムで行われるfootballのチケットがシーズンには入手困難になるというのだから、如何に人気があるか分かろうと言うものだ。
何故観戦の機会を得たかというと、ボスのProf. G. S. Frankelが娘さんと見にいく予定であったのだが、娘さんの都合が悪くなったのでチケットが浮いたとのことで誘ってくれたのだ。対Illinois戦の行われる前日の金曜日の夕方、どうだいと声をかけてくれたので、迷うこと無く行きますと。実の所、率直に言ってfootballにはそんなに関心がある訳では無く、試合を生で見るのは勿論初めてだし、テレビでもちらっと見る位で、一試合ずっと観戦していたこともない。ルールも知らない。ラグビーの方が泥臭くて男らしい気もする。とは言いつつも、一度は見てみる価値はあると言うし、せっかくの機会、無駄にする手はない。
試合は土曜の昼からであった。天気予報によると冷えるということだし、ボスも重ね着した方が良いというので、ありったけの重ね着をして行った。この時は今来ているダウンジャケットを買う前だったので、一番上には仙台で着ていたフード付きのジャケットを、中にはT-シャツ、シャツ、セーターに加え、もう一枚厚手のものを着、更にダウンベストを重ねた。ジーンズのズボンの下にはスパッツ、おまけにマフラー、ニットの帽子と前夜スーパーで買ったOSUのロゴ入の観戦用の座布団。雪が降るらしかったのでビニール製のカッパも用意した。このカッパはナイアガラの滝見物のボートで配られたものである。
以上、これだけ重ねれば暫く外に座っていてもなんとかなるだろうという感じの出で立ちで出かけた。が、夏が終わり秋になるとガタッと気温の下がる北部アメリカである、普段は暖房の行き届いた建物の中にいてさほど気にはならないが、長時間外にいるとなると寒さは侮れない。外では小雪も降っている。後にこれだけ着て行ったのは正解だと分かった。約束の時間のちょっと前に着く積もりで、家から車を出し、大学へと向かったのだが・・・、なんと大学内の駐車場はいっぱいである。年間の料金を払っているガレージはスタジアムからも遠いし入れるのだろうと思ったら甘かった。着いたらとっくに閉まっていた。交通整理の誘導に従って移動するとどんどん訳の分からない方に行ってしまう。約束の時間に間に合わなくなるとちょっと慌てる。仕方なしに外に出てうろつくと、幸い大学敷地の駐車場に停めることが出来た。とはいえかなり南の方である。9th Ave.であったから数ブロックも離れている。こいつぁやばいぜと走るが、なにせ前述のような厚着である。如何に外が寒いといってもとたんに汗をかいてくる。顔から湯気も立ち上る。恨めしいばかりの保温力だ。もうぜーぜーはーはー、やっとの思いで約束の場所、研究室にたどり着くと何とか間に合っていたのでほっとする。さあ行こうかとスタジアムに歩いて向かうが、スタジアムに入ってもなお顔から発する湯気は止まなかった。
さて、スタジアムの入りであるが、小雪も降っているというのにほぼ満員・・・とその時は思っていたが、実際後に会場で撮影した写真を良く見てみると、空席が無いでもない。日本人に比べると標準体型も大きい上、厚着して、さらにポンチョなど被っているから隙間はそんなに見えないが。まあ8割は入っていたと思われる。凍えそうな日だし、相手はIllinoisで明らかに格下のチームだからまあ少しは減るだろう。これだけ寒ければもっと少なくても不思議ではないと思うのだが、そこら辺は人気スポーツだからであろうか。因にボスは靴には電気ヒーターを仕込んでいた。
試合は今まで見たことが無かったが、一緒に行ったボスが説明してくれたので、何となく分かった。もっと詳しくルールを知って、いろんな作戦など見えてくるともっと面白いかもしれないが、ルールを知らず、ラグビーやサッカーの様なものを期待すると退屈するかもしれない。現に、以前見に行ったというハンスやパトリックは、一度は見に行くのもいいが、何度も見に行くようなものでもないと言っていた。ハンスに至っては退屈だとさえ言う。確かに、ちょっと動いたかと思うとすぐ潰されて仕切り直し、10秒と動きが続くものでもない。パスで繋いでという動きは見られない。ラグビーと違い、ボールを持っていない相手にもタックルできるので、パスの通り道も潰してしまうせいなのだろうが、動き始めたなと思ったらそこら中でぐしゃぐしゃ入り乱れて終わっているという感じである。その上、テレビ放送されているのでコマーシャルのための時間プレーが止められる。ハンスが退屈したのも分かると言えば分かる。4回潰されるまで攻撃出来、その間にじりじりと前進、うまくいけばタッチダウンであるから、兵隊が陣地を進めて行って敵陣を進行する様な雰囲気である。球技ではあるが、極端に言えば、球を使った集団相撲といった風情であり、そう思って見ている方が楽しめる気がする。
ところで、サッカーの方がずっと面白いというヨーロッパ人のハンスとパトリックに言わせると、野球も退屈らしい。ルールも知らないという。American footballやbaseballはアメリカ人だけのスポーツだという。野球は勿論日本では人気プロスポーツであるが、ヨーロッパではそんなに認知もされていないというのは意外であった。野球も動きが継続する球技ではないが、そういうのは彼等のお好みではないのだろうか。
寒い中見ているので、出来ることなら派手な動きが見られた方が有難いと思っていたが、相手との実力差が大きい為、何度かのこちらのタッチダウンを見ることが出来て幸いであった。タッチダウンの度にチアガールのお姉ちゃん達が踊り回る。実際は僅差の試合の方が面白いというのはもっともだが、初めて見る分には一方的でもいいからタッチダウンを何回も見せてくれた方が有難い。潰れてばかりいる所を見てもつまらない。作戦が予想できる訳ではないし。しかも、そこら中でタックルしあうものだから、ボールが何処にあるかも良く見えない。おまけにボールを持ってるが如くフェイクして、さあ、あっちに投げるぞという素振りを見せるのが必ず出て来る。相手の注意を引き付けておくのに効果的ではあろうが、不慣れな観客の私は何度これに騙されたことだろう。そっちを見ている間に全く別なところでボール持った奴が潰されてるということが何度もあった。しかも黒人プレーヤーがうまいことフェイクすると太い腕とボールとが区別しにくいのでたまらない。
ところで、観客の方の盛り上がりであるが、流石アメリカ結構なものである。タッチダウンを決めれば大歓声。「これがOhio州のやりかただぜー」とか叫ぶ初老のおじさん、えらくヒートアップして喚いているおじさん。このヒートアップしたおじさんは敵の選手が休憩で近くのゲートを通って引き上げて行く時にも罵ったりしていた。ウェービングも起こる。O・H・I・Oの文字を、西城秀樹のYMCAの要領で体で作ったり。こっそりビールを飲んでいると思われるおばさんを見つけたが、多分こういうところでの飲酒は禁じられているのではないかなと思う。もっともこんなに寒い日では、こっそりウイスキーでも用意している人もいたかも知れない。
そんなこんなで2nd quarterが終わると、ブラスバンドが登場。何故か指揮者がマジックも披露する。そんな中、ちょっとトイレへ。誰もOSUのBuckeyesの勝利を疑わないのと、吹雪いてきて一層寒いのとで帰る人も結構出て来た。ボスも寒いし大丈夫?と言うような聞き方をしてきたのだが、せっかくチケットをおごってもらっているし、すぐ帰るというのも悪い気がしたし、もう少し見ておきたいと思ったので、その後少し見やすい空いた席に移って試合を観戦。一方的な試合は続き、遂にBuckeyesは2軍を投入。更に天候も悪化ということで、暫くして結局は我々も引き上げることになった。翌日の大学新聞でその結果を見ると、2軍に代わってから1回のタッチダウンを許したようではあるが、大差の勝利であることに変りがなかった。
今、その時の写真を眺めているのだが、観客席は赤で埋められている。というのは、OSUのカラーが赤とグレーで、半数を超えると思われる観客がOhio StateとかOhio State Univ.のロゴの入った赤いポンチョやジャンパーを着ているからである。OSUのロゴ入りのT-シャツ、帽子、トレーナー等、とにかく数多くの製品が売られている。一般のスーパーでもかなり見かけられる。自動車のガラスにもOSUのステッカーが貼られているものなど良く見かける。学内でもロゴ入りの服を着ている人はかなり多いのだが、これはどういうことだろう。日本でも大学ロゴ入りのT-シャツ、トレーナーその他無いことは無いがこれ程着ている人を見かけるということはない。応援団とか部活関係でもないと、そうあからさまに何々大学でございと表に出すことは無いし、学内でそんなものを着ているとダサイと思われかねない。このアメリカ人のロゴ入り好きは何処から来るのだろう?
アメリカの大学進学率は日本より低く、また、州内で最もレベルが高いと言われる大学であればそれなりにステータスを感じるというのもあるかも知れない。が、それだけとも思われない。日本では、何処何処会社の某ですとか、何々大学の誰某ですといった、肩書き、所属を尊重しがちというが、確かにそういう所はあると思う。ところが、より個人を尊重する傾向にあると思われるアメリカ人が、こんなにロゴ入り好きになるのだろう。実は、アメリカ人も所属意識を求めているのではないだろうか。種々の国からの移民で成り立っている国である。父親はイタリア系で母親がイギリス系で、というような、先祖もややこしい人だらけの国である。自分が何者であるのか、不安になる面もあるのだろう。勿論人間のidentityは、所属や家系等にばかり基づくものではないとは言え、個人尊重の裏側の、自分は何者かという潜在的な不安感を、歴史や文化の浅いアメリカの人達は持っているのではないかとも感じる。America is No.1.とか、アメリカに生まれたことを誇りに思うとか、そういった盲目的な愛国心も、その潜在的な不安感の裏返しとは解釈できまいか。以前ちらと見た放送シーンを思い出す。多分有名であろう歌手が観衆の前で国家を熱唱、大統領演説、スペースシャトルの打ち上げ、女の子が涙を流しながらうんうんと何かを納得するように頷くシーンがだぶる。如何にも愛国心を煽る感じのビデオシーンであったが、戦後の過剰の反省か、小中学校の卒業式でも国家吹奏が省かれたりする日本からすると、なんだかちょっと羨ましくも思えたことがある。日本も変な民族主義とかでないのなら、もう少し威勢良く国旗を掲げてもよいのじゃないかなと。考えてみると、アメリカが愛国心を煽ろうとするのは、移民国家の統制を図る為もあろうが、国民がそれに乗りやすいのは、多民族による所属意識の持ちにくさから来る潜在的不安感を解消したいという意識のせいではなかろうか。ロゴ入り製品が売れるのも、その潜在的不安感、心の隙間を埋めるものなのでは・・・とまで言ったら穿ちすぎだろうか。なんだか随分footballの話から逸れてしまったが、ふとそこまで感じてしまう程、スタジアムは同じ色で埋められているし、ロゴ入り製品も多く売られている。帰国前にはここにいた記念に、そんなロゴ入り製品を幾つか買おうかなと思っている。
(Feb 1, 1998)
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