日本製品

 外国に住んだり旅行したりする日本人の多くは、想像以上の日本製品の多さに、ちょっとはびっくりするのではないかと思う。自動車や電気製品、時計、カメラその他、こんなものまでと思うようなものまで日本製品だったりする。実はこの滞在記を書き始めた当初から、日本製品には触れてみようとは思っていたのだが、去年起こったことを今年になってからしたためているのを見ても分かるとおりで、億劫がっているうちに今に至ってしまった。
 さて、まず最初に目に付くのは自動車である。初めての海外はハワイで、その時も、おー日本車走ってるよと思ったし、フォルクスワーゲンの国ドイツでもこちら程ではないにせよ日本車を見かけることが出来た。テレビで何処ぞの秘境探検なんていっても、トラックが日本車だったりして、こんなところまで行き届いているのかと驚かされる。こちらColumbusの北の方にはHondaの工場があるそうで、それなら結構ここら辺にHondaの車は多いかなと思ったが、別にHondaばかりということはなく、Toyota、Nissan、Subaru、Suzuki、Mazda、Isuzuなど、とにかく日本で見かける様な会社名は大概見かけられるのではなかろうか。オートバイだってHonda、Suzuki、Kawasaki、Yamahaと何処かで見たようなのが多い。自動車雑誌でお薦め(recomendation)マークがつくのは大概日本車であるというし、故障が少なく耐久性もよいと評価されているせいか、中古車の値引率も日本車は低いようである。俺のは日本車だぜと自慢するような人も少なくない。日本人としては嬉しく感じる。もっともこの調子では黒字減らしも大変かなあと不安にもなるが。
 我が乗用車はFordのAspireであるけれど、中味は結構日本製らしい。確かMazdaかどこかじゃなかろうか。日本でFestivaの名前で売られているのはこれではないかとも聞いたが車のことは詳しくないので良く知らない。が、多くのアメリカの自動車会社が日本の技術を取り入れて、低燃費で質の高いエンジンを採用していると聞く。何年か前に、アメリカの自動車工場の従業員が日本のライバル会社の自動車をぶち壊して気勢をあげるなんてことがあったが、今や自分の会社の自動車部品にも日本製品が混ざっているので、なかなかそんなことも出来なくなっているであろう。アメリカの会社の労働者にとっては今でもどうだかは知らないが、少なくとも消費者にとっては日本車の人気は高い様である。この街で見かける日本車の3割位は日本車なのではないだろうか。乗用車だあけでなく、ショベルカーの様な重機を見てみるとHitachiであったりKomatsuであったりと、とにかくよくまあこんなにと驚かされる。
 VCRを買おうと大きな電気屋に出かけた時のことである。やはり日本製品の多さには目を見張るものがあった。Sony、Canon、Mitsubishi、Hitachi、Toshiba、Sanyo等など、全部社名を挙げないと失礼かもしれないが挙げていたらきりがないので適当に切り上げておく。EpsonやNECも頑張っている。店員に話を聞くと、これは日本製だからいい品物だよとばかりに薦める。時にはどの国の会社か知らないけれど、この会社のは品質が良いと言われて見ると日本の会社だったりする。ついでにプリンターも欲しかったので眺めていると、店員は今一番の売りはこれだとEpsonのStylus、日本で言うところのカラリオを薦めてくる。ピエゾ素子を使ってて解像度が高いのだと自慢する。アメリカ人店員に日本製品を自慢される日本人客の立場も妙なものだが、ちょいと嬉しい気はする。日本製だから大丈夫とまで言われると、随分短絡的だなあと思ってしまうが、そこまで品質の良さが認知されているというのは嬉しい事である。日本製といっても自分で作った訳では勿論ないが、祖国日本の技術が評価されることは喜ばしい。日本人に日本製品を高く評価しているところを見せると喜んで買うだろうという作戦でもない。アメリカ人にも日本製で良い品だと薦めているし、だいたい連中にとってはこちらが東洋人であるという以外、日本だか韓国だか中国だか、はたまたインドネシアだか区別は付いていないのが普通である。
 自動車や電気製品以外でも、日本製品は至るところで見受けられる。NikonやCanonのカメラ、Seiko等の時計、Fuji filmなどなど。外国製の時計でも、裏を見るとJapan Movementとこれ見よがしに刻印されていたりする。Mizunoのスポーツ用品なんかも見かける。その他、Kikkomanの醤油、日清やマルちゃんのラーメン、ぺんてるの文房具に至るまで、幅広く出回っているのである。こちらでは時々モーターボートとかジェットスキーなんかを引っぱった車を見かけ、アメリカらしいレジャーだなあ等と思うが、そのボートはYamahaだったりする。Yamahaはカナダのスポーツ番組のスポンサーにもなっていた。Yamahaというと、その昔、プロレスラーの山本小鉄、星野勘太郎(両選手とも引退)が海外修行時代に、体は小さいが良く動くということでYamaha Brothersを名乗っていたというが、この頃からヤマハ発動機の評判は良かったのであろう。松田聖子が少し前にアメリカ進出を狙ったが、成果はあまり上がっていないようである。Matsuda (Mazda)+Seikoで有名な日本の自動車、時計会社のであるから覚えられ易そうであるが、対米黒字の反感を煽ってしまったか、ふざけた名前と思われたか・・・。実力以外の名前の影響もあったのでは、とふと思う。
 さてはて、話はちょっとずれたが、とにもかくにも日本製品はそこら中で見かけられる。さすが一番のお得意様である。日本の経済発展もこういった製品の輸出によるところが多いのだろうなと思わされる。逆に、これだけ売って今があるなら、売れなくなったらえらいことになるだろうなと不安にもなる。日本の製品が輸入出来なくなっても他の国は滅びないだろうが、日本は他の国からの輸入が途絶えると、化石燃料等の資源は勿論、寿司ねた、味噌、醤油にも困る位であるから日本が潰れるといっても過言でない。そうならないよう、政治・経済とも安定した国際関係を保っていただきたいものである。
 ところで、例えば日本車の宣伝に日本人が出て来ることは殆ど無いようだが、逆に日本国内での日本車のコマーシャルに外人が出て来たりする。これはなんだかちと寂しい。未だに抱え込んだ劣等感か日本古来の慎み深さか。どうせなら三船敏郎あたりがコマーシャルに出て来て渋く宣伝して欲しいものよと思うが、先日亡くなられたのでこれは叶わぬ夢になってしまった。(CNNでも、Japan's Samurai actor Mifune died.の見出しで載っていた。)スピルバーグの新作映画で主演するという工藤夕貴でもいいし、相撲とりが出て来て「私が乗っても余裕です」というもよし、もう少し製品を作った国民の顔が見えても良い気がするのだが。
 日本のものというと、数年前こちらで忍者がブームになったりしたし、ゴジラとかは結構知名度が高い様だ。最近アメリカ版ゴジラも公開されるようだ。昔のゴジラのビデオをこちらで買ったが、英語字幕でなく吹き替えられておりちょっと残念であった。近々日本で評判になった宮崎駿の「もののけ姫」もDisney経由で配給されるらしいが、日本のアニメ、漫画も結構流行っているようだ。Anime、Mangaで通じる。同じ学科にいるアメリカ人のGrantなどは日本のアニメが好きな様で、最近のアニメなどはこちらより詳しい。先日スーパーでPower Rangersのビデオが安売りされているのを買った。これは日本の子供向け実写戦隊もの、ゴレンジャーに始まるテレビ番組そっくりのものである。それもその筈、東映が共同で作っているようだ。しかしヒーローがポーズを付けながら戦う様はアメリカの子供にも受けるのかなあと思ったりするが、アクションは実に似た様なものである。巨大化した敵と戦う大型ロボットも何故か剣を振るう。あんたら鉄砲の国で何故?と疑問でもあるが。剣を振り下ろす瞬間、背景には水墨画が現われる。やはり日本の剣術を意識しているのであろうか。武器やロボットの玩具はBANDAIがタイアップして売っているあたりも日本とそっくりである。そうそう、玩具というと、こちらでもPlay Station、SEGA Saturn、Nintendo64等のビデオゲームも人気が高い様だ。ゲームセンターにもnamcoとか日本の製品が目立つ。たまごっちも結構人気が出たと聞く。こちらでたまごっちそのものは見ていないが、その代わり中国製の類似品、Nano-PetとかHotorikkoとかいう名前の怪しげなものを良く見かける。今の子供世代が大人になる頃には日本がもっと近しいものになっているかも知れない。
 さて、もうすぐ長野冬期オリンピックが始まる。テレビ放送のコマーシャルでは侍が出て来たりお坊さんが書をしたためていたり、着物を着た人が踊っていたり。日本らしいものが織り込まれているが、日本の現在の姿は見えにくい。伝統的なものの紹介はいいのだけど。一方つい先程テレビで見た短時間の日本の紹介では東京のラッシュアワーと地下鉄サリン事件の映像が映されていたが、これもちょっとなあという感じで。諸外国にとって日本はどのように映っているのであろうか。ちょっと前のドイツの新聞に、「失楽園」が、不況で倒産した日本の会社員が腹切りする映画だと報じられたようだ。この間抜けなドイツ有名紙の記者は、その元ネタをアメリカの新聞から確認無しに取ったものらしいが、そのアメリカの新聞記者は何を考えているのだろう。ジョークの積もりなのだろうか?いずれにせよまだまだ誤解がある証拠であろう。
 ところで、2月に入りValentine's dayも近いが、スーパーでは多種のカードの他、チョコレートも数多く並べられている。大きい事はいいことだのアメリカのせいか、馬鹿でかいハート型のもある。女の子が男の子にチョコレートを贈るような習慣は日本で作られたもので、元々西洋には無かったのではないかと思うが。多分日本のお菓子屋さんの企みだと信じていたのだが。カードや贈り物を聖バレンタイン祭の日に、普通匿名で恋人に送るというのが元の習慣であった様だが、贈る相手が恋人だったら、何か甘いものでもということで、チョコレートあたりを選ぶのは結構自然かも知れない。別に日本をまねた訳でもないのかも知れない。しかし、まるで日本の様に並べられたチョコレートを見ると、この時期の日本のチョコレート会社の儲けに目を付けたアメリカの会社が真似してみたような気がしなくもないのだが。だとすると、日本の文化、習慣も(この場合は元は西洋だが)意外なところでアメリカに浸透しつつあると言えよう。もっとも、仮にチョコレートの習慣が日本からの逆輸入だとしても、「義理チョコ」の概念がアメリカ人に理解されるのには、まだ暫く時間はかかるであろうが。
(Feb 2, 1998)

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