治安
治安はこちらに来る前から結構気になっていた。アメリカと言ったら銃は持っているは麻薬はあるはで日本に比べたらとんでもないところではないかと。実際の所、犯罪率がどの程度なのかは知らない。定量的な比較が出来る訳ではないけれど、感覚的にどんな感じであるかを書いてみようと思う。
まず、こちらの大学の研究室に来て見て驚くのは(もっとも日本にいる間に聞いてはいたが)コンピュータがワイヤで机に固定されていることだ。日本ではこんなことないし、机の上に平気で財布などを置いておける。ノートパソコンなどは容易に持っていけるため、部屋を出るときには必ず鍵を掛けろとか見えるところに置くなとかいわれる。BossのJerryはvapor pressureが高いと表現していた。大学には研究員や学生の他、掃除のパートも入る。言い方は悪いが、その様な人は生活レベルも低いため盗む可能性もあるという。なんともはやだ。そんな訳で、ノートパソコンは毎日持ち帰っている。ノートパソコンとはいえさほど軽くもないので面倒である。皆、個人持ちのパソコンを置かないのは、盗まれる可能性などを危惧してのことだろう。
大学内にはそこら中に青いライトが天辺に付いた柱が立っている。強盗、火事などの非常時にその柱に付いているボタンを押す事になっている。こちらの大学に来てオリエンテーションに行ったときには、後ろから誰かが付いてくると思ったら押せという。暗くなって帰るときなどはその非常ボタンの付いた柱をたどるようにしろという。一人で遅くまで大学に残るなともいう。やれやれ。遅くなって危ないなあと思ったら、駐車場までエスコートのサービスもある。いやはや。現金をあまり持ち歩くなともいう。食事のための小銭ぐらいにしておけと。そんな訳で先日$300ほど銀行でおろして財布に入れていたときにはちょっと気になった。
最近、日本でも暴力的な若者が増えている気はする。東北大の片平の学内でも茶髪君が院生を脅して金をとったりということがあり、許し難いと憤りつつも、こちらに比べるとかわいいものかなとも思う。
私がこちらに来る前に、夕方泥棒を捕まえようとした学内警察官が逆に撃たれて亡くなったという事件もあったというから洒落にならない。アメリカに15年住んでいた日本人の教授が、大学の南の自分のアパートの目前で黒人に銃を突きつけられ、財布をとられたという事もあったそうである。日本に帰る一月程前のことだったというから、アメリカに嫌な印象を残すことになってしまったことだろう。お気の毒である。
概して、街の南側、down townに近いほうは治安がよろしくないという。北のほうが安全であると。又、大学の横を南北に走るHigh St.の東側は柄が悪いという。困ったものである。車以外では足を踏み入れることが無いのでどの程度かは良く分からない。どうも黒人の割合が高いようである。偏見を持つ訳ではないが、どうも生活レベルが低い人の割合が多いというのが原因だろうか。
ともかく、こちらにはやたらでかい人が多い。標準的には意外とそんなに背が高い訳でなく、自分と大して変わらない人、むしろ小柄な人も多い。しかし、日本では滅多にお目にかからないようなでかいのの数は多く、そこら辺にごろごろしている。そんなのを相手にしたらひとたまりもないって感じである。体の厚みがまた凄い。日本だとおじさん層で強そうと感じる人はあまりないが(やくざっぽい人はまた別として)、こちらのおじさんのなかにはやけに強そうなのがいっぱいいる。とてもおやじ狩りの対象にはなりそうもない。
また、入れ墨をしてる人も結構多い。銭湯で断わられそうだが、こちらに銭湯はないので気にはならないのであろう。日本の様な背中に大きく桜吹雪をと言う感じではなく、髑髏やら犬やらのワンポイントが多い。女性でも薔薇など肩に入れていたりする。20才位かなと思われる若者などでも入れている。Tatooの店を幾つか見かけるが、あまり抵抗なく入れてしまうのだろうか。入れ墨は主に青っぽい色で、漫画チックなものが多く、日本のやくざ映画に出て来るような芸術的と言えるようなのはない。しかも腕などにこれ見よがしに入れている。この様な人達が治安を乱してるのかどうかは知らないが、ピアッシングした人もふくめ、なんだか柄が悪く見える。
Social Security Numberをとりにdown townに行ったときのことである。この時はたまたま、同様にアメリカに来たばかりのドイツ人のHansといっしょであった。彼とはこれを知り合うきっかけとし、後に親しくつきあうようになる。Down townにはなんだか何をしに来ているのか知らないが、やけに人がおり、柄の悪そうなのも沢山いた。アメリカに着いてすぐということもあり、余計物騒に見えたということもあるかもしれない。とにかく、日本の街角よりはよほど物騒に見える。背広を着たサラリーマン風のおじさんなんて殆ど見かけないし、みんなどんな職業なのか分からないラフな格好をしている。ごついアメリカ人がごろごろしている。用が済んだらとっとと帰ろうかとも思ったが、せっかく街の中心に来たことだし、少し見物でもしようとHansと一緒に歩くが、shopping moleも見つからず、たいして面白くもないね、と、帰ることにする。実は、shopping moleはビルに囲まれているか何かで、中に入って行かなければ見えないそうだ。帰りがけバス停でバスを待っていると、怪しい黒人のおじさんが声を掛けてくる。黒人のおじさんのごしょごしょ喋る英語を聞き取れるほど英語に長けている訳がない。ところが、ホームレスで金がないんだけど幾らかくれないかという要旨は明らかに受け取れた。ここは英語の分からない日本人を決め込もうと「良く分からないんだけど」みたいなことを言ってしらばっくれる。英語で言わず日本語を使えばよかったかなとも直後にふと思った。ドイツ人のHansもしらばっくれている。するとこのホームレスのおじさん、諦めたのか、立ち去ろうとするが、こちらが英語をさっぱり分からないと思ってか穏やかな口調を装いつつとんでもない雑言を浴びせてくる。"Fuc* your as* hol*."とか、"Have a good day, bitc*."とか。日本でもこの様な悪いスラングをどこからか知る機会があるので、えらくクリアーに聞こえてくる。おーおー、ホントにこんなこというんだーと、半ば感心して聞いてしまっていたので大して腹も立たなかった。「いっとけよこの宿なし、くたばりやがれ」とこちらも相手が分からないのをいいことに、にこにこしながら日本語で返せば良かったかなとも思うが、雰囲気で分かって怒り出されても困るので知らん振りしてた。Hansも知らぬ顔のはんべえ。翌日研究室の秘書さんにこんなことがあったと話すと、その対応は良かったという。実はああいったホームレスは、適当にそうやって適当に稼いでいるので、意外と金を持っているのだとか。だから結構諦めが早かったのだろうか。そう言えばたしかにそのホームレス、やつれた感じはしていなかった。まあ。そんなこんなで今の所、down townに行ったのはこの他、Independence dayの前日パレードと花火を見に行ったとき位である。
アメリカに来た直後、神戸で猟奇的殺人事件が起こった。その35日後犯人が逮捕され14才の少年であった事で驚かされた。また、例のオウムの事件といい、治安の良いとされる日本でもなにかと犯罪は起きるものである。とはいえ、犯罪に自分自身があう確率としては、こちらのほうがかなり高いであろう。主には金目当てのものであろうが。田舎で比較的治安は悪くないとされるOhioでも、やはり日本の様には安心できないだろう。
ところで、こちらは日本の様には治安がよくないので、24時間営業の店なんて無いだろうと来る前は思っていた。7・11も11時には閉まるであろうと。ところが、7・11は24時間営業だし、大手のスーパー、Big Bearも24時間営業である。それなりの防犯対策はあることとは思うが、深夜でも営業できるということは、そう極端に治安が悪い訳ではないという証明であろう。少しほっとする。こちらで何事もなく帰国できることを説
切に願う次第である。
(July 4, 1997)
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